現代版桃太郎その2
ドアスコープを覗くと、どうやら宅急便のようだった。
伝票にサインをし、見た目よりずっしり重い段ボール箱を請け取った。
その箱からは、甘酸っぱく瑞々しい芳醇な桃の香りが漂ってきた。
すぅーっとその香りを楽しみつつ、“山梨に親戚なんていたかしら?”陽子はそんなことを考えながら送り状を確認した。
送り主の欄は空白。陽子の頭に真っ先に浮かんだのは最近ワイドショーで見た「送り付け詐欺」の事だった。箱を開けたら最後、料金を強制的に払わされるというなんとも悪質な詐欺だ。
でもそんな事は、桃の甘い誘惑の前では継続的な意味をなさなかった。
“そういえばあの人、桃が好物だったわ。この間福島に出張に行ってきてたからその時買ったのね”人と言うものは誘惑を前にするとそれを正当化させるためのもっともらしい理由をひねり出す。
陽子は箱を開け、綺麗に並んだ桃の中でも真ん中に鎮座している一番大きな桃を一つ手に取った。
そして、その柔らかく少しでも強く握ると壊れてしまう繊細な桃に包丁を入れた。